この村では子供は一定の年齢に達すると「モノ」になる儀式を受ける。
今日も1人、子供が儀式の為に廃屋にしか見えない建物に入っていく。この建物の中で判別が行われ、出てきた時にはナニモノかになって出てくるという仕組み。本人には一体自分がナニモノであるかは儀式が済んでも分からない。しかし、本人以外には確実にその子がナニモノであるかは分かるようになって出てくる。
子供が建物に入り、扉が閉められる。少し離れたところで両親が心配そうにその建物を見つめている。
「あの子はナニモノになるんかね・・・」
「まぁ心配はいらんだろ・・・。ヤツは息子ながら良く出来たヤツだ。弟達の面倒も見てくれるし家の手伝いだって。きっと孝行モノかしっかりモノだ」
「そうだねぇ・・・。ちょっとおとなしいからひょうきんモノにはならないね。でも立派なモノになって出てくるわね」
扉が開かれる。少年は特に表情というものを浮かべず両親の元へゆっくり歩いてきた。そして彼の姿を見た両親の顔から笑みが消えた。
臆病モノ
少年は弟の面倒など見たくなかった。両親の手伝いなどしたくなかった。遊びに行きたかった。けれども親に逆らうのが怖くいやいやそれらのことをこなしていた。自分を主張するのが怖かった。嫌われたくなかった。
少年は両親の表情から察したらしく、黙ってきびすを返し村を出て行こうとしていた。乱暴モノ、卑怯モノ、うつけモノ、粗忽モノ。そういったイメージの悪いモノとされた子供達は村では蔑んだ目で見られる。その家族も同様に。そして結局はその家族共々村から居なくなってしまう。その為、出てきた子供が悪いイメージのものであった場合、その場で村から追い出し「なかったこと」にする家も少なくない。「臆病者」であるところの少年は当然その事情を知っており、自ら村を出て行くことにしたのだ。特に表情らしい表情を浮かべず、少年は村の出口の方へ歩いてゆく。
「どこへ行くんだ?」
父親が彼の背中に声をかける。
「なんというか・・・。悪かったな。お前に無理させてたみたいで。それでも、だ。お前は家のため良くやってくれた。動機なんていいんだよ。お前は孝行息子だ。まぁこれからはお前の好きにやるといい。ただ、たまには家の事も手伝えよ!・・・さぁ、帰るぞ」
「・・・そうね。帰りましょう。さぁ」
母親が少年の肩に手をかける。呆然とした表情をしていた少年は、ホッとした顔になり、そして声を上げて泣き出していた。両親は何も言わなかった。母親は少年の肩に手をかけ、父親は頭をぐしぐしと撫でていた。
少年が泣き終え家に帰る頃には、少年は果報モノになっていた。
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